組織のデジタル・ツイン(DTO)とは何か?

テクノロジートレンド

ブログのテーマからは逸脱しますが、本記事ではGartner社がテクノロジーのハイプ・サイクルで、これから来るトレンドとして挙げている「デジタル・ツイン」の、更に先を行く概念である「組織のデジタル・ツイン(DTO: Digital Twin of an Organization)」について紹介します。

製造業や建設業などでは当たり前の概念になりつつあるデジタルツインを調べていたら、Gartner社のレポートに「組織のデジタル・ツイン(DTO: Digital Twin of an Organization)」なる概念がありました。

デジタル・ツインというのは、実際のモノをデジタル上のデータで再現(デジタルの双子)し、現物を毀損することなく耐久テストを行ったり、部品の老朽化のチェックを行ったりできる概念で、IoTやMESを代表とする製造システムと密接に関わりある仕組みと理解しています。…が、あくまでそれはモノとデータの関係であったはずです。猫も杓子もデジタルツインと言っている現状では、モノでない「組織」のデジタルツインという概念が出てきてもおかしくはないですが、折角ですので正確に理解しておきたいと思います。

組織のデジタル・ツイン(DTO)はGartner社のアイデア

こちらの記事を読むと「組織のデジタル・ツイン」なる概念はGartner社のアイデアのようです。Gartner社のプレスリリースにもDTOの説明が書かれているので、以下に引用してみます。

デジタル・ツインは、組織のデジタル・ツイン (DTO: Digital Twin of an Organization) を実現するという、IoTのさらに先を行く革新的な特徴を持ちます。DTOは、動的なソフトウェア・モデルであり、組織のオペレーション・データなどからビジネスモデルの運用状況を把握し、現状に関連付け、リソースを展開し、変化に対処して、顧客にとっての望ましい価値を提供します。DTOは、ビジネス・プロセスの効率化に役立つだけではありません。より柔軟かつ動的で、より優れた応答性を備えたプロセスを作り出すため、状況の変化に自動的に対応できるようになる可能性もあります

gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20181031

勘の良い方はこれだけでもおよそ理解されるかと思いますが、もう少し具体的な活用例やソリューションを把握しておきたいところです。

組織のデジタル・ツインの目的

そもそもデジタルツインの目的は、現実の製品や機器・設備を仮想空間上に構築し、シミュレーションを行ったり、稼働状況をリアルタイムに監視することで、設計変更・仕様変更による影響予測がより安価に短期間で行えるようになったり(商品開発プロセスの効率化)、機器や設備の故障や不具合を事前に察知できるなど(予知保全・不良検知)、商品開発から生産〜アフター管理まで、全ての製造プロセスを効率化できるというところにありました。

これは、市場やビジネスの状況が目まぐるしく変化し、ニーズも多様化している状況下において、商品の開発サイクルの短縮化や歩留まりや品質の更なる向上、変更による影響の分析による迅速な意思決定が求められることに適切に対応しています。

同じ文脈で「組織のデジタル・ツイン」についても目的の把握が可能です。

ビジネスが絶えず変化し発展する環境において、これらの変更から生じるリスクを軽減し、コスト削減、収益の増加、競争力の確保につなげるため、組織を構成する人、業務プロセス、システムなどをデジタル化することで、組織の稼働状況を可視化するとともに、現実の世界で組織の変更を実施する前に、シミュレーション上で影響を予測して調整できるようにする。

これが「組織のデジタル・ツイン」の目的と考えられます。

組織のデジタル・ツインの活用イメージ

目的と照らしあわせて活用方法をリストアップすると以下のようなイメージになるかと思います。

  • 組織のリーダーが、組織や業務プロセスに対して大きな変更を行う前に、さまざまなオプションやシナリオを確認しながら、仮想モデルで変更をシミュレーションする。
  • 組織のリーダーが、組織がどのように機能しているかを分析し、組織の改善につながる非効率な領域、弱点を特定する。
  • 新入社員を含むすべての組織のメンバーが、組織の戦略、目標、パフォーマンス、運営を理解するのを助ける。

例えば、大規模な人員配置変更を行う前に仮想モデルでシミュレーションを行い、顧客の満足度、営業目標の達成率、社員の満足度などのKPIがどう変わるのかを分析します。また、人員配置のパターンを切り替えながらシミュレーションを繰り返すことで、リスクは大きいが目標の達成率の高いシナリオA、顧客中心に価値を提供するシナリオB、現状から多少の改善のみを行うシナリオCのような形で事業戦略にあった組織変革のシナリオを検討することができるようになるということです。

あるいは、いわゆる生産ラインなどの標準化の進んでいない業務領域においても、メンバーが何をやっているかを可視化し、高いパフォーマンスを発揮している時の業務プロセスと、低下している時の業務プロセスを比較し、イレギュラーな作業を行っていないか、ボトルネックがどこにあるのかを分析し、最も調子の良い時のパフォーマンスを全メンバーが常に発揮できるようプロセスを標準化、効率化を推進できる…

夢みたいな話ですが、概念としては理解できるもののコンセプトだけの話なのか、どこまでが実現可能な話なのか、具体的なソリューションや事例をもう少し見ていきます。

組織のデジタル・ツインの事例はある?

Gartner社のレポートに「組織のデジタル・ツイン」の事例とサポートする企業の紹介がありました。残念ながら中身は読めませんが目次レベルでは確認できるようです。

目次を見ると事例の紹介ではシーメンス社がピックアップされているようです。シーメンスは言わずとしれた製造業のデジタル・ツインのグローバルリーダーです。HPなどを見ると「製品のデジタル・ツイン」「生産ラインのデジタル・ツイン」にあわせて「パフォーマンスのデジタル・ツイン」が紹介されています。

パフォーマンスのデジタルツインでは、製品または生産工場からの運用データが常に供給されます。これにより、機械装置のステータスデータや製造システムのエネルギー消費データなどの情報を常に監視することができます。代わりに、非稼働時間を回避するための予防保全を実行し、そしてエネルギー消費を最適化することができます。

https://new.siemens.com/jp/ja/kigyou-jouhou/stories/industry/the-digital-twin.html

「工場の操業」のデジタル・ツインということで、モノのデジタル・ツインよりも高次の領域ではありますが、「組織のデジタル・ツイン」と呼ぶには物足りません。

もう少し調べてみると「プロセスマイニング」の事例がありました。恐らくこちらが「組織のデジタル・ツイン」に最も近いシーメンスの事例ではないかと推測されます。

シーメンス(Siemens AG)では、世界中の5,000人に及ぶ社員がプロセスマイニングによるダッシュボードを利用しています。彼らは出社すると、朝一番にそのダッシュボードを開き、現在進行中の業務に問題が発生していないかを確認します。アラートが出ていればその内容を確認し、即座にその指示に対応します。彼らにとってプロセスマイニングは日常業務のスムーズな進行に欠くことのできないツールとなっているのです。

https://www.sapjp.com/blog/archives/32750

プロセスマイニングは組織のデジタル・ツインへの第一歩?

ここで新たなキーワードが出てきます。Gartnerのレポートでは「組織のデジタル・ツイン」と並んで「プロセスマイニング」が紹介されており、「組織のデジタル・ツイン」を目指すための重要なキーワードのようです。

組織のデジタル・ツインをサポートする企業として紹介されているQPR社のニュースでは「プロセスマイニング」について以下のように述べられていました。

プロセスマイニングは、ビジネスプロセスへの重要な洞察を提供するため、企業のデジタル表現を作成するための基本的なステップです。これらの洞察は運用システムから継続的かつ自動的に引き出されるため、事実に基づいた柔軟なアプローチが可能となります。さらに、プロセスマイニングは、企業がバリエーション、イレギュラー、主要なボトルネック、およびRPA(ロボットによる自動化)の機会を特定するのに役立ちます。

https://www.qpr.com/company/news/-recognized-in-gartner-guide-for-digital-twin-enabling-technologies

プロセスマイニングに関する企業の紹介はこちらの記事にもありますが、本記事でもやはりGartnerのレポートを引き合いに出しており「プロセスマイニング市場の見積もりが2018年に1億6000万ドルに近づいた」「プロセスマイニングへの関心が急速に高まっているため、この数は2年間で3倍または4倍になると予想されている」と紹介しています。

これから伸びていくプロセスマイニング。そしてその先にある「組織のデジタル・ツイン」。どうやらここが現時点での到達地点のようです。調べるとKPMGの提供している日本語の記事もありました。一部引用します。

プロセスマイニングの活用と合わせ、RPA、BPM(Business Process Management)、AIなどのプロセスコントロール系プロダクトとのコラボレーションにより、単体活用以上の効果を発揮し、デジタルトランスフォーメーションが加速していきます。(中略)
デジタルトランスフォーメーションを推進し、その先へと強化する概念の1つに、「Digital Twin of Organization(DTO:組織のデジタルツイン)」があります。プロセスマイニングで可視化された組織の姿を、DTOのコンセプトに基づき、仮想モデルで確認することによって、さまざまなシミュレーションが可能になります。

https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2019/05/what-is-process-mining.html

プロセスマイニングという一つの仕組みを利用し、他のソリューションと組み合わせることで最終的に「組織のデジタル・ツイン」を目指していく、ということですね。

プロセスマイニングとは何か?

先に紹介したKPMGの記事が詳しいため、ここで詳細に書く必要はなさそうですが、一言で言うと業務システムのイベントログを解析し、業務プロセスを可視化する仕組みです。

「組織のデジタル・ツイン」では組織を構成する人やプロセスのデジタル化を目指していますので、その内のプロセスをデジタル化する一端を担っていると言えそうです。

ポイントだけ整理すると以下がプロセスマイニングのアプローチとなります。

  • 既存の業務システムでイベントログ(入力開始、終了、出力、承認などシステムを利用した際のイベントの記録)を取得
  • イベントログをツールでつなぎ合わせて解析することで、業務プロセスを可視化
  • ログの時間を解析することで各プロセスにかかっている時間(工数)を可視化
  • プロセスの差異を分析することでベストなプロセス、イレギュラーなプロセス、ボトルネックなどを抽出

従来より担当者にヒアリングを行ったり、ストップウォッチで時間計測するなどし、業務プロセスを手作業で書き起こすことは業務改善のアプローチの中で頻繁に行われて来ましたし、システムによるイベントログを分析して工数計測することも一般的かと思います。ただし、それには時間がかかったり、断面的な情報だけで網羅性に欠けていたりするという問題がありました。プロセスマイニングツールの登場で、その問題を解消できる目途が立ったということでしょう。

KPMGの記事ではCelonis社のソリューションを紹介しているようです。Celonisは先に紹介した記事でも主要ベンダーとして挙げられています。本記事では、他にもGartnerのレポートでも紹介のあったQPR社を挙げているようです。

日本の場合はプロセスもシステムもあまり標準化されておらず、そもそも既存の業務システムから、ツールで解析可能なイベントログをどう抽出するかというところが課題になりそうですが、SAPなどのERPとの連携も始まっているようですのでこれから日本でも耳にすることが多くなりそうです。「組織のデジタル・ツイン」はその先ですね。

参考(記事中で紹介したURLを除く)

  • https://www.bmc.com/blogs/digital-twins/

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