『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』を読んだのをきっかけに土浦市へ行ってきた

ちょっとした旅の記録

高野 史緒著作の『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』というSF小説がある

『SFが読みたい! 2024年版』で日本作第一位となり、第44回日本SF大賞の候補にもなったのでSF好きなら知っている人がほとんどかと思うけど、この作品の舞台が「茨城県土浦市」…ということで、行ってきました土浦市

半分は土浦市の散策記録で、もう半分は『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』の舞台めぐりの記録となってます。

舞台めぐりの方は作品のネタバレになる部分は意図的に避けつつも、とはいえ引用しないと何の場所か分からない部分のみ一部書籍から本文を引用して紹介しています。ただし、引用するのは序盤のみ、具体的には目次の3章『夏紀に超常現象?』の章までとしています。

前後半に限らず土浦散策の参考にもなるように記載してるので、小説は知らないけど土浦市を散策しようと思っている人もぜひ

土浦市の魅力

霞ヶ浦

土浦市の東側は霞ヶ浦に面しており、駅から少し東に出ると、穏やかな浦と豊かな緑とさわやかな風の、とてものんびりとした空気が広がっています。

僕は釣りはしないのだけど、いたるところで釣りをしている人を見かけたので、釣りの好きな人にも良いロケーションなのではと思う。

サイクリング

土浦の「つくば霞ヶ浦りんりんロード」は国土交通省からもナショナルサイクルルートとしてPRされている日本でも有数のサイクリングロード。

筑波鉄道の廃線跡を利用した筑波山まで続く長大なコースと、霞ヶ浦を周回する湖岸コースがメインのようだけど、メインのコース以外の道路でも自転車のレーンが明記されていたり、青矢印で自転車が走るべき場所を示していたりするし、土浦駅は駅構内に自転車を乗り入れることも可能な作りになっていてめちゃくちゃサイクリストにフレンドリーな町だと感じた。

これは別にサイクリング趣味の人へのメリットだけではなく、手ぶらで来訪した観光客に向けて、駅やホテル、まちかど蔵など様々な場所で自転車を貸し出しているので、気ままに自転車を借りてぶらぶらすることも可能だ。

そんな僕もホテルで自転車を借りて町めぐりをしたのだけど、電動アシスト付きだったので予想以上に色んなところを巡ることができて大変はかどった。

ただし、観光事業であるのとサイクリスト向けに結構良い自転車を用意してあるケースが多く、そこそこの値段がするので要注意だ(こちらの自転車は4,500円/半日)。しっかり元を取りたいのなら早めに到着して、利用時間をフルに活かしたほうがよいだろう。

レトロな建物

土浦駅のまわりは少し近代化されているものの、少し亀城公園側に進むと、ところどころに昭和時代や、更には明治時代の香りのする建物が現存する(しかも営業しているものも多い)

もちろん中城通りなど観光スポットとして明確に保存されているところもあるし(奥に見える「吾妻庵」は1896年創業)

なんでもないところに、こんなお店が急に飛び出してきたりする(こちらは鰹節店で有名な「黒田藤次郎商店」で創業は1936年という記事を見かけた)

もちろん和の建物だけではなく洋風の建物も多いし、昔ながらの洋食屋なども多い。

和洋の入り混じったレトロな建物を巡ってみるのも土浦の楽しみ方の一つではないかと思う。

飛行船(グラーフ・ツェッペリン)を巡る旅

土浦がなぜ飛行船の町かというと、1929年にドイツを飛び立った「グラーフ・ツェッペリン」(LZ127)が世界一周の途中に霞ヶ浦に飛来したからだ。

この日本(アジア)初の快挙を観光資源として活かそうと、飛行船を題材にした街づくりが平成の中頃から粛々と続けられていた模様。平成17年には日本飛行船がドイツから購入した「ツェッペリンNT号」も土浦に飛来している。

亀城プラザ

飛行船による町づくりの中でも最も目立つのが亀城公園の向かいにある亀城プラザに展示された精巧なグラーフ・ツェッペリンの20分の1模型だ。

飛行船によるまちづくりをテーマとして結成された「土浦ツェッペリン倶楽部」が、土浦市市制施行60周年に合わせ、平成12年10月に、製作期間約2ヶ月をかけて完成させた

「飛行船の町づくりの活動実績」https://www.city.tsuchiura.lg.jp/data/doc/1230258355_doc_3.pdf
なんと僕が訪れたタイミングでちょうど盆栽展が行われており、全景が撮影できないという事態! こんなこともあるのか

裏手に回るとグラーフ・ツェッペリンの内部も見えるようになってる。

よくよく観察すると底部通路と中央通路なるものがあり、人の絵を描いた紙が設置されており、当時はこのように飛行船の中を歩けたのかと勉強にもなる(え!? 飛行船の中って水素ガスで満たされてるんじゃあ…と思って調べてたら、こちらのサイトにとても分かりやすい断面図が載っていた。どうも船体構造の中に水素ガス袋が別に設けられている模様)

土浦ツェッペリン伯号展示館

中城通りの「まちかど蔵」の裏手にある、小さなギャラリー。

なんと入場は無料なのでぶらりと立ち寄ることができて嬉しい。展示の数々も貴重な記録のようだけど、この展示室内の雑然とした独特な雰囲気も、何か不思議な空間に迷い込んだようで面白い。

喫茶『蔵』

土浦ツェッペリン伯号展示館の隣にはレンガの壁面が印象的な喫茶店がある。

こちらはレトロな雰囲気が抜群なので、一休みにちょうどよいのだけど、それ以上に、なんとここでは『ツェッペリンカレー』が食べられる。土浦はカレーにも力を入れていてカレーを出す店は多いのだけど、『ツェッペリンカレー』という名称でカレーを出している店はここと「福来軒」しかない。レトルトでお土産として購入することはできるのだけど、現地で食べたいならここは最有力候補になること間違いない。

ちなみに、何がツェッペリンなのかしばらく悩んだけど、どうもライスが飛行船の形を模しているようだ。具材は茨城県産をふんだんに使っているとこのと。

霞月楼

こちらは中城通りから少し路地を入ったところにある創業明治22年の老舗料亭の「霞月楼」

料亭とグラーフ・ツェッペリンの何の関係があるのかと思うのだけど、なんとここはツェッペリンの着陸後に、エッケナー博士と幹部乗員の歓迎会に使われた場所らしい。

それもあって、料亭の中にはグラーフ・ツェッペリンの展示室があるとのこと。残念ながら僕は中には入っていないのだけど(そこそこ良いお値段もするので)、こちらの記事などを参考に、興味のある人はぜひ訪れて欲しい。

霞ヶ浦総合公園

Googleマップを見ると『ツェッペリン飛行船飛来の地』と書かれてるけど、実は飛来の地ではなく、土浦市制60周年記念事業の一環として飛行船の形をしたジャングルジム「ツェッペリン号」があるだけの場所。

とはいえ、ここまでのサイクリングコースは景色も綺麗でめちゃくちゃ気持ちが良いので来訪する分には損のない公園だ。しかも園内には日帰り入浴施設もあるので、サイクリングの疲れを癒やすのにちょうどよい。

陸上自衛隊 霞ケ浦駐屯地 飛行船ツェッペリン伯号飛来の地

こちらが地味だが本当の飛来の地。

陸上自衛隊の駐屯地内のため立ち入ることはできないけど、フェンス越しに記念碑の看板が眺められる

目の前は企業の事業所や民家、畑が広がっており、まったく観光名所っぽくなく、駐車場などもない。いやこれ、飛行船のジャングルジムとか作るくらいなら、もっとここをアピールする見せ方があるのではないかと思うのだけど、自衛隊の敷地なので権利の問題とかいろいろあるのかなと。

フェンス越しに眺める自衛隊の基地はこんな感じ。この広い敷地内にグラーフ・ツェッペリンは降り立ったのだ。

『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』の舞台めぐり

亀城公園(城址公園)

作中では城址公園と呼ばれたり亀城公園と呼ばれたりする最重要スポット

登志夫と夏紀はここでグラーフ・ツェッペリンを見たのだ

どういう経緯で公園に来たのかは分からない。公園の南の角を占めている芝生で遊んだような気もするし、それは後づけの偽の記憶のような気もする。そのあたりのことはほとんど覚えていない。

園内の少し小高くなった丘(本当に「小」高いだけで、丘というほどではない)で空を見上げると、どこからともなく大きな乗り物らしい低いエンジン音が響いてきて、夕空に巨大な流線型のものを見たのだった。

『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』2章より

公園の中で小高い丘を探してみたが、イメージするような丘は存在せず、本文を頼りに南の角を占めている芝生へたどり着き、空を見上げた写真が上の画像だ。その芝生の区画を少し離れて見てみると、確かにほんのり盛り上がっているようにも見える。これが本当に「小」高いだけで、丘というほどではない丘ということだろう。

土浦まちかど蔵、天ぷら ほたて

登志夫は暑さのピークが終わった時間帯に、自転車で少し近所を巡ってみた。比較的新しい校舎の小学校、廃園になった幼稚園の跡地、信用金庫、ブランコと低い滑り台くらいしかない城址の公園、櫓門だけの史跡、市立博物館、あちこちに何かの跡地らしい駐車場、資料館を併設した土蔵の喫茶室、古い木造の天ぷら屋、つくば市に通じる高架道、地方裁判所、そして、ウィークリーマンションの近くの歴史がありそうな料亭、霞月楼。

『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』2章より

2章のはじめに登志夫が自転車を駅で借りてサイクリングをする描写で出てくるスポット群。

このうち『城址の公園、櫓門だけの史跡』は前述の亀城公園のことで、『霞月楼』も先に紹介した通り。サイクリングコースのうち、観光名所を地図にプロットしてみると以下の通りで、亀城公園と中城通りまわりをぐるぐるしているのが分かる。

こちらが資料館を併設した喫茶の『土浦まちかど蔵』。正確にはこの向かいにある建物に喫茶が併設しているので、建物はこれではないのだけど写真を撮り忘れたのでこちらで。

そしてこちらが古い木造の天ぷら屋の『天ぷら ほたて』

こちらの天ぷら屋は土浦の観光スポットとしても人気なので、作品に関係なく訪れる人は多いだろう。ちなみに作品だと後半にももう一度、『保立食堂』としてさらっと描写されてたりするけど、同じ店のことだ。

奥井薬局

薬局は少しメルヘンチックな趣のある、白亜の漆喰塗りの二階屋だった。赤い三角屋根、丸いひさしのついた窓、白い格子の入った大きな窓。建物自体は古そうだったが、手入れが行き届いている様子だ。

『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』2章より

いやはや、この薬局を見つけたときは喜んだね。Google Map上では、うまく見つけられなかったのだけど、まさにサイクリングしてるとたまたま見つかった場所。

ご存知の通り、登志夫が通っている薬局だ。3章での描写もバッチリ一致するので間違いない。

薬局の側面には、背の高い人なら少しばかり腰をかがめないと通れないような、小さなドアがあった。硝子がはまり、上部が昭和っぽく丸くなった、白いドアだ。そのドアの両側に一つずつ窓がある。

『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』3章より

場所はここなんだけど、ごく普通の薬局で観光スポットでもなんでもないのでご注意を。

土浦名店街

引用は避けるが、後半に『狭苦しい商店街』『祇園町の仲見世』として描写される商店街のおそらく現存する一角と推測される場所。

場所は駅から亀城公園に向かう道すがらにあり、よく見ていないと見過ごしてしまうほど静かに佇んでいる。

「おそらく」と書いたのは、作中では、昔存在したものとして描写されているので、これと分かる証拠がないからで、ただ、こちらの古地図を見ると『祇園町』というのは、まさしくこのあたりを指していたように見えるし、こちらの有識者のブログによると東半分は高架道路の建設により姿を消し、西半分はシャッター街化したものの残っているとある。

状況証拠的にはほぼ間違いないけど、昔の雰囲気は失われていると思うので参考程度かな。

ちなみに、普通に営業しているお店もあるので、昔ながらの雰囲気を味わえる場所として散歩するのも楽しい。

結婚式場(土浦光粒子コンピュータ・センター(架空の施設))

「ラ・フォレスタ・ディ・マニフィカ」という結婚式場だったようだけど、平成27年に営業を終了し、建物がそのまま残っている。当然、施設内には入れないので、外から撮った写真だ。

ここが何なのかというと、作中で登場した『土浦光粒子コンピュータ・センター』と思しき場所だ。いやはや、この中にコンピュータセンターを設置しようと思った高野先生のセンスよ。

土浦光粒子コンピュータ・センターが何故、サイトに建物の外観写真を載せていないのかがやっとわかった。(中略)それは、ヨーロッパの大聖堂を模した教会風建築そのものの中に作られていたのである。(中略)結婚式場を当てこんで出店したのか、一軒家のスターバックスもある。式場がなくなった後も、かなり広い駐車場とドライブスルーで来客があるのか…

『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』2章より

幹線道路を挟んでいるけどスタバもちゃんとある。

ただ、この場所は他のスポットと違い、やや町中から離れているため、自電車や車でないと訪れるのは厳しいと思われる。スタバの場所はここだ。

まとめ。思った以上に楽しめる町、土浦

以上で土浦の紹介は終わり。

もともと『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』の舞台めぐりを目的としていたのだけど、期せずしてサイクリングを楽しめたり、霞ヶ浦の自然に癒やされたり、レトロな町並み探索にハマってみたりと、なかなかに充実した1泊2日の小旅行であった。

がっつりサイクリングをするのでなければ週末程度でも十分に楽しめる手軽さも魅力かなと思う。

都内からも車や電車で1時間ちょっとで訪れることができるので週末ドライブにぜひ訪れてみて欲しい(ちなみに中心部でも駐車場は1日400円程度)

最後に紹介しきれなかった土浦で食べたものの写真も掲載しておく。レトロな雰囲気の中で食べ飲みするのはやはり最高だ。

「洋食 大かわ」の「カニクリームコロッケ」と「オムライス小」
亀城公園の向かいにある「城藤茶店」の「ゆずソーダ」 古民家にあがって一息つける雰囲気抜群の喫茶処
中城通りにある「吾妻庵総本店」の「天ざる」 油の香りの豊かな海老天は平らに整形されておりとても美味しい

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